第17回「特許業界とAI」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第17回「特許業界とAI」
AIは、世間のみならず特許業界でも無視できない存在感を示しつつあり、権利化の要である特許審査においても導入される可能性は年々高まっていると感じています。
最も実用化に近いところにあるのはAIによる先行技術文献のサーチでしょうか。また、近年飛躍的に向上したAI翻訳の精度とのかけ算で、外国文献サーチに対しても非常に親和性が高いように思えます。
では、このままAIが進化を続けるとどうなっていくのか?審査官の間でも議論になることはありました。AIが審査官の思考回路を学習して、新規性違反はもちろん、進歩性違反の判断領域にまで到達する日が来るのではないか?という可能性についてです。
それが具現化されるためには、人間が使用する言葉の捉え方をAIがどの程度まで学習できるかが一つのポイントになってくると考えています。
特許請求の範囲は、発明の上位概念で広く包括されていますが、あいまいな表現や、記載不備など、アウトラインが一義的に特定できない発明も多々あります。
審査官はそのあいまいさを逆手に取って拒絶理由を考えたり、請求の範囲を限定させたり等、審査の方針を定めていきます。
AIが審査官の思考回路を辿るうえで、特許請求の範囲のアウトラインを理解することは必要不可欠であり、このような対応が不得手であると、当たり前の技術が権利化されてしまったり、明細書に書かれていない不明確な発明が許されてしまったり、さらには、有用な発明が拒絶査定されてしまったり、といった弊害を引き起こす原因となるでしょう。
一方で、AIが審査官の思考回路の中央値を学習することで、審査のバラツキがなくなり、公平な審査結果が担保されるという別方向からのアプローチにも期待が持てます。
出願人や弁理士からすると、この審査のバラツキはやっかいなものです。
第8回「親ガチャならぬ審査官ガチャ」でも触れましたが、厳しい審査官に当たれば対応が困難となることもしばしばです。AI審査官がバラツキを無くし、公平かつ適切に判断してくれれば出願人側の審査への納得感を高めることができそうです。
今年に入り、知財高裁において、「AIを発明者として登録することはできない」という地裁の判決が支持されたことは記憶に新しいですが、発明者、弁理士、審査官の役割がAIに取って代わられる未来は否定しきれないのではないでしょうか。そのとき人間としての審査官、そして弁理士の役割はどのようなものになっているのか?AIには真似のできない人間としてのアドバンテージをどこに見出していくのか?
既成概念にとらわれず、法改正も含め、時代の変化に柔軟に対応していくことが求められているのかもしれません。
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弁理士法人エピファニー特許事務所
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