第13回 「長いクレーム・短いクレーム」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第13回「長いクレーム・短いクレーム」
クレームとは特許請求の範囲であり、出願人様が欲しい権利を余すところなく言語化したものですが、この言語化というところに、とてつもない深さと苦労があることに異存はないと思います。
なにしろクレームの記載如何により権利範囲の強さや広さ、使い勝手が全く変わってくるのですから。
審査官はクレーム一言一句に、真剣に対峙し、法的な分析を行います。
審査に入るときにまず注目するのは、請求項1の長さです。
なぜなら審査官はクレームに記載された全ての構成要素について先行技術を調査するので、クレームの長さは審査負担に直接影響するからです。
例えば30行の請求項1と、5行しかない請求項1では、どちらが組みしやすいか?といえば、まずは5行クレームの方でしょう。
しかしながら事はそれほど単純ではありません。
なにしろクレームというものは発明のキモであり、優秀な代理人や知財部員であれば、そこに深い深い戦略を盛り込んでくるからです。
つまり、このような戦略的で短いクレームこそ、最小限の構成要素で発明のポイントが表現され、さらに先行技術を回避する進歩性をも包含している・・・究極に強く広いクレームとなっている可能性があるのです。
逆に長いクレームの中にも、いたずらに従来技術が羅列され、発明のポイントが薄いために先行技術と相違していない弱いクレームが多々存在します。
クレームの長短が、発明の強さや広さを直接的に反映しているとは言えませんが、一般的には短いクレームは広い権利範囲であり、先行技術と被る可能性が高くなり、長いクレームは狭い権利範囲であり、先行技術と被らない可能性が高く(=特許査定になる可能性が高く)なる場合が多いようです。
審査官からすると、請求項1に短いクレームが記載されているときには、期待と不安が8:2くらいで混じり合います。先行技術が容易く見つかって簡単に審査が終了するかもという期待と、もし先行技術が見つからなかったらこんなに広い権利範囲を許していいものか?という不安。
そして、短いクレームでズバッと特許査定をするときにはこのような不安が残る一方、クレームを考えた出願人や代理人に対するリスペクトが心の中に生まれます。
発明を言語化したクレーム(請求項)とは、戦略に富み、思慮深く、興味深い言葉の有機的なつながりだと思います。
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