第12回 「審査官バトル」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第12回「審査官バトル」
第8回では「親ガチャならぬ審査官ガチャ」について書かせていただきましたが、今回は、このテーマに絡むお題として、「ではどの程度、担当審査官によって審査の結果が左右されるのか?」について考えてみたいと思います。
これは審査官自身にとっても興味がかきたてられる話題であり、ある意味パンドラの箱とも言えます。普段は審査官それぞれが独立して審査を行っているため、実は、自分の審査が周囲の審査官たちとは全く違っているのではないか?という疑念は、どの審査官も少なからず抱いていると思われます。(むしろ抱いていないとしたら、それはそれで問題のある審査官かと個人的には思います。)
このパンドラの箱を開け、現実と向き合う手段として面白いイベントがあります。審査室で不定期に行われるサーチコンテストなるものです。
まず、複数の審査官が同じ案件に対して同時に先行技術調査を実施し、そのサーチの結果を共有します。そして、各審査官が見つけた先行技術文献の中でどの文献が一番適切か?を議論し、どのようなロジックで新規性や進歩性を否定するのか意見をぶつけ合うのです。
議論には、若手もベテランも審査官としての経験値も関係ありません。素直に意見を言い合い、各審査官の意見を分析します。プライドがぶつかり合うかと思いきや、非常に前向きで建設的な意見交換と言うべきものが展開されます。そして、お互いの考えに興味津々。開催までは重い空気に包まれていても、ディスカッションが始まれば、お互いに相手の意見をリスペクトしているのが良くわかります。
さらに興味深いのは、世界中に蓄積された数千万の文献をサーチしているはずなのに、かなりの確率で、複数の審査官が同じ先行技術文献を挙げてくる、ということです。私も在職中に数回このコンテストに参加しましたが、同じ先行技術文献を挙げ、同じロジックを用いる審査官が複数いる場面に幾度も遭遇してきました。
なので、審査官ガチャは存在するのですが、日本の審査官達のアウトプットは意外と均質化されているのかもしれません。
サーチコンテストは、おそらく多くの審査官にとって、興味はあるがちょっと敷居の高いイベントという認識だと思います。けれどもこのような取り組みを通して自分の立ち位置を修正し、審査官全体で高い品質を保っていくことは、出願人サイドから見ても歓迎すべきことだと思われます。
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