第4回「発明の強さとは?」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第4回「発明の強さとは?」
特許権の強さにはいくつかの定義があると思います。
強い特許権とは例えば、他社から多額のロイヤリティ収入を得られる実用的な権利や、後発企業の発明の権利化や実施を阻止することが可能な障害物となる権利、企業価値の評価に値する発明群としての権利などが挙げられるかと思います。
しかし、特許権の強さを語る上でまずは発明が審査官の審査を通らないと話になりません。
では審査時に審査官が感じる発明の強さとは何かというと、やはり「進歩性」に起因する強さだと言えるのではないでしょうか。
前回に続き審査官の進歩性のイメージをいくつか可視化してみます。
まず、一番オーソドックスな特許査定可能な進歩性の形です。
先行技術に対し、十分な高さを有しています。このような発明は、初見で「進歩性がありそう」と感じることができます。
ピークが先行技術に対して十分高いため、権利化後に新たな先行技術が発見されても無効になるリスクが少ない発明です。
ただし、ピークが一つなので、権利の広がりはありません。
この形状の場合、出願人や弁理士が頑張って複数の素晴らしい発明を明細書に記載しています。
特許請求の範囲の書き方によっては、これら複数のピークを横断する広い権利を取得することが可能です。
また、複数の権利化可能な発明が明細書に開示されているため、後日出願を分割して必要な発明だけを別途権利化することも可能です
この形状は進歩性について審査官として文句のつけようがない発明です。
上記の各図と違って山が先行技術の土台の上に乗っていないところに注目してください。
俗に言う「技術的課題が新規」という発明で、先行技術は存在しません。
課題が新規なので、誰も着想しなかった技術的課題を解決した発明です。
なので、海面から少し頭を出しているだけで新規性も進歩性もクリアしています。
なかなか遭遇しませんが、即特許査定となる発明です。
これらの進歩性の形状のバリエーションから一つ重要なことがわかります。
先行技術が存在する一般的な発明の場合、標高の低い発明を沢山明細書に記載しても進歩性は確保できないということです。
すなわち、進歩性は高さを基準とする一点豪華主義です。
発明の積み木を平面的にあれもこれもと低く広く展開しても進歩性の標高をクリアすることはできません。
発明のポイントを深く考え、積み木を高く高く積み上げることが大切です。
特許請求の範囲や明細書がどれだけ長く書かれていても、発明のポイントが高く積み上がって書かれていなければ権利化は難しくなります。
出願人(発明者)は明細書をチェックする際、是非この点を意識していただければと思います。
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