第6回 「審査官の深層心理」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第6回 「審査官の深層心理」
今回は、「許す?許さない?もう一度やり直す?」 揺れる審査官心について書いてみます。
特許庁の審査官は法的に「独立した行政庁」という位置付けで、特許の審査について大きな裁量権を持っています。
つまり、一人の審査官の判断によって特許権が付与されるのか否かが決まるのです。
そこにはいかなる組織的な圧力や上司の力、または外部の力も及ばないとされています。
しかし、この裁量権こそが審査官を迷宮の中に誘うきっかけとなることもあるのです。
例えば、明らかにどこかで実施されていそうな発明を審査するとします。
はじめの心証は、「この発明は当たり前に実施されているか、確実に先行文献があるな」と感じ、「瞬間的に審査が終了するな」と高を括って審査をスタートします。
そして、審査官は楽観的に先行技術文献を探しにいきます。
まずは同一の発明が公開されているだろうと憶測を立て、ピンポイントで探します。
特許庁に蓄積されている文献、世界中の特許庁が蓄積した文献、ネット上に公開されている一般の資料、そして学術論文などなど。
一通り探した後、同一の発明が見つからないときに、「さてと・・」となります。
すぐに見つかるはずの「もの」が見つからないときの焦り・・・
そこで、気を取り直して「複数の文献の組み合わせから本発明を完成させることができないか?」と考え直します。
つまり、「同一の発明は今までに公開されて無さそうだけれど(新規性あり)、複数の公開された発明の組み合わせから本発明にたどり着けるのではないか?(進歩性なし)」と考え始めます。
そしてここでも本発明にたどり着けないと判断すると、いよいよ精神的に追い込まれていきます。
「こんな大きい発明を許したら、どこかで大々的に実施されている製品に被るかもしれない。」
「自分の間違った判断で先行する誰かに多大な迷惑がかかるかもしれない。」
なにより、「自分の間違った判断を特許公報として自身の名前入りで世界中にブロードキャストしてしまうかもしれない!」と。
この気持ちは審査官経験者にしかわからないものだと思います。
審査官は一見国家権力を振りかざすエゴイストのようなイメージがありますが、その中身は人間であり、臆病で迷いもする一個人ということを念頭に置いて、書面や対面でのコミュニケーションに臨むと結果も変わってくるかもしれません。
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