第2回 「審査官の思考回路」
コラム
~元特許審査官のつぶやき~
エピファニー特許事務所様への寄稿
第2回 「審査官の思考回路」 前回、お話しました審査官の思考回路について少し進めてみます。 発明者(研究開発者やエンジニア)や弁理士に独特の思考回路があるように、審査官にも独特の思考回路が存在します。 発明者であれば、製品の開発や設計上の問題点に対し、これらをクリアするために解決手段を試行錯誤して見つけていく思考回路でしょうか。 弁理士であれば、発明者の提示する発明のポイントを抽出し、どのような特許請求の範囲の記載にするのか、それを権利化するためにどのような明細書を書いていくのかという思考回路でしょうかね。 一方、審査官には審査基準という教科書的なものが存在し、これに則って審査をするのですが、実際の審査の思考回路はもう少し複雑です。 簡単に言えば、この出願内容の場合、特許査定に導けそうなのか、もしくは拒絶査定方向に進んでしまいそうなのか、という仮説を立てながら審査を進めていきます。 これはベテランになればなるほど、直感的に行っているのではないでしょうか。 例えば、着手当初は、請求項の記載をサラッと読んだときに、「このクレーム(請求項)の記載だとたぶん先行技術文献が既に公開されているからダメだろうなあ」とか、「このポイントは新しい発明のようだから特許査定方向に行けそう」とか、「ここは技術的によくわからないな」など、当たりを付けてから審査に入っていきます。 つまり、この最初の段階ですでに「これでは許せない」とか、「少し直してもらえたら許せるかも」とか、「どうしたら良いかわからん」とか、ある程度の心証が決まってきます。 なので、出願人や弁理士には、この最初の段階で拒絶査定方向にバイアスがかからないような書類の作成能力が必要になります。 審査官は、特許請求の範囲の中から特許査定できそうな「光る部分」を探しています。そこで下位請求項でも「光る部分」が存在していれば、そこを汲むような審査の方針を立てます。 「光る部分」が無ければ、まずは全ての請求項に対し拒絶理由を考えていきます。 そんな仮説のもと、ゴールを見ながら拒絶理由に使用する条文は後付けということも多くあります。 弁理士先生の中には、この審査官の思考回路を理解しており、最初の拒絶理由通知を受け取った後、特許請求の範囲をうまく修正して特許査定の方向に進めてくれる能力を持った方がいらっしゃいます。 審査官と弁理士・出願人との間に共通言語が存在し、コミュニケーションが成立している状態です。 そのような対応が積み重なり審査室内に広まると審査官たちに安心感が生まれ、この弁理士先生については書類を確認するだけで良い方向に進んでいきます。 他方、一方通行でがむしゃらに的を外れた主張だけが書類に記載されていると、審査官も違うんだよな・・となって良くない方向に沈んでいきます。 次回は、より具体的な思考回路について考えてみます。 なお、このコラムについて質問や要望などがある方はお気軽に下記の「コメントする」をクリックしていただき、質問・要望等の記載事項を記載してご連絡ください。記載内容については全て非公開とし、ご回答は記載して頂いたメールアドレスに直接返信いたします。
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