進歩性を勝ち取るための戦略とは?

新たな製品を開発する技術者の皆さんは、
日々、従来技術の課題解決に挑んでいることと思います。
しかし、課題を解決するアイデアが浮かんだとき、
それが特許として認められるかどうか、つまり「進歩性」があるかどうかが気になるところです。
私は、「このようなアイディアで特許取れますか?」ということを相談時にしばしばいわれます。
進歩性の定義は、端的にいうと「当業者が容易に発明をすることができたもの」ですので、
当業者である技術者の方が発明に進歩性が無いのではないか?という考えをもつのも当然であると思います。


進歩性とは、審査においては克服すべき重要な要素です。
今回は、進歩性の判断基準と、その確保のためのポイントについて、具体的な事例を交えてご紹介します。



進歩性とは?審査官の視点

特許庁の審査官は、発明の「相違点」と、その「相違点」がどのような課題を解決しているかに着目して進歩性を判断します。
従来技術と比較して新しい特徴がある場合、その特徴が課題解決にどう作用しているが重要です。
審査官は、主な引用文献と他の補足的な文献に同様の技術が記載されているかを確認し、進歩性が否定されるかどうかを決定します。



特許事例:スルーホール構造の進歩性

具体的な事例として、特許第7358708号を見てみましょう。
この発明は、プリント配線基板のスルーホールの新規構造により、スルーホール引き抜き強度を向上させる課題を解決しました。
しかし、出願当初の発明は、審査では主引用文献と副引用文献を組み合わせた場合に、進歩性が否定される可能性が浮上しました。



事例の詳細
以下の図は主引用文献のスルーホール構造を示しています。図(A)には、主引用文献の発明の構造を示したものであり、台形状の凹部を備えたスルーホールが示されております。この構造が特許第7358708号の出願当初(補正前)の発明の進歩性判断の基礎となっています。


図(A)




審査官の判断
  • 主引用文献: 台形状の凹部を持つスルーホール技術
  • 副引用文献: 偏心したスルーホール構造
  • 判断内容: 「偏心させる構造は設計事項であり、自明である」として進歩性を否定
しかし、最終的には本願発明(請求項1)を「スルーホールの引き抜き強度が調整可能な構成を備える」といった事項を加える補正を行い、独自の技術思想を主張することで、特許が認められました。
この事例では、技術的特徴を機能的に表現し、具体的な形状に限定せずに進歩性を確保することに成功しております。
具体的には、本願発明は、明細書において、
「開口部の凹部内壁面が、殴打痕による不規則模様を呈している点にある。より望ましくは、粉体の衝突痕模様の不規則模様が挙げられる。この模様は、砂粒(サンド)を対象物表面に打ち付ける「サンドブラスト工法」で形成可能である。」と説明されております。
これにより、偏心して設けた開口部の凹部内壁面の状態を傷つけることによりランド5の密着度が高くなり、結果としてスルーホール引き抜き強度が高くなる、という効果を奏するものになってます。
「殴打痕」などの具体的な特徴については、下位の請求項に特徴として記載され、発明の具体的な特徴も権利としてしっかりカバーされてます。


実務へのヒント:進歩性を確保するために

  1. 相違点の明確化:新規構造や機能的特徴が従来の課題をどのように解決しているのかを明確に説明しましょう。
  2. 上位概念化:特許請求の範囲を具体的な形状に限定せず、機能や効果を表現することで進歩性を確保することも一つの手法です。ただし、機能的表現は明細書に記載された内容に限定されることがあり、相違点を確保するには有効ですが、権利範囲を広く見せる効果に留まる場合があります。
  3. 明細書への詳細な技術の反映:出願時点でどの文献が引用されるかは予測が難しいため、発明の技術を詳細に明細書に反映することが重要です。後に反論材料として有効に活用できます。また、出願前に、考えられる変形例やボツにしたアイディアも含めて記載することで、周辺技術も権利範囲に含めることができ、権利をより強くすることも可能になります。



まとめ

技術者の皆さんには、まず新規性のある部分がどこかを重点的に考え、その部分がどのような原理で課題を解決しているのかを明確にしていただきたいと思います。
新規性や進歩性は、その技術が高度かどうかで判断されるのではなく、従来技術との比較に基づく相対的な評価です。
技術者は経験が豊富なため、「こんなアイデアは容易だ」と感じることがあるかもしれませんが、それはあくまで主観的な判断です。
実際には特許性のある技術であり、容易に見える技術ほど強力な権利として活用できる可能性も十分にあります。
見過ごさずに権利化し、事業の優位性を高める武器として活用していただきたいと思います。




----------------------------------------------------------------------

弁理士法人エピファニー特許事務所

住所:東京都中央区日本橋横山町3-13

電話番号:03-6824-7924

----------------------------------------------------------------------