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「特許になる発明ってレベルが高いものですよね?私が考えたものなんてとてもそんなレベルじゃないですよ。」
とおっしゃる方、多いです。

でも、そうでもないと思います。

おそらく、その道の専門家が考えたことは、そんなにレベルが低いものではないと思います。
(同業他社が非常に多い場合は、また別だと思いますが)

ある発明が、先行技術との相違点を有しているのであれば、特許される可能性は十分あります。

発明をなかなか出せない技術者の方は、特許を取るには、
 難しい、高度である、複雑である、役に立つ、etc.
技術を出願しなければならない、という考えを持っている場合が多いと見受けられます。
言い換えると、発明が特許になるには、絶対的な基準をクリアしなければならない、と考えている人が少なからずいる、と思います。

しかし、特許されるか否かは、従来技術との関係で決まる相対的なものです。
「難しい、高度である」などは、発明の分野が何なのか、又は発明の効果がどうなのか、ということを示しているにすぎないと思います。

例えば、一般の人は誰も知らないような技術についての発明は、当然特許も取りやすいと思われます。
それは、技術的に難しいからとか、技術的に高度だから特許になるのではなく、単純に「従来に無い」からです。
極論を申し上げるようですが、発明者が主観的に「容易だ」、「高度でない」等と感じていることは、特許として登録されるかどうかには直接的には関係ない、といっても良いかもしれません。

例えば、「平成28年(行ケ)第10103 号 審決取消請求事件」というのがあります。

これは、ある会社が他社の特許を無効にすべく無効審判を請求した事件です。

特許に係る発明は、
下記の3つの図のような
(平成28年(行ケ)第10103 号 審決取消請求事件の判決から引用しております)、
電力の送電線及び配電線を緊張する際に使用されるケーブルを掴んで引っ張る工具(掴線器)についての発明です。





これに対し、従来の掴線器は、




従来の技術では、上記の図2のようにケーブルを掴んだ上で、リング部2にフック6を引っ掛けてケーブルを引っ張ると、
図3のように、ケーブルを屈曲させ、ケーブルが損傷する可能性があります。

しかし、図1に示すように、
掴線器のリング部をケーブル中心軸方向から見たときに斜めに傾けた上で、
ケーブルと同じ高さまで上げることにより、
ケーブルの図3に示すような屈曲を抑えることができます。

この発明は、当業者でないとなかなか気づけ無い「ケーブルの屈曲」を解消できる「高度な」ものだと思います。

私は、以前に機械設計を生業としておりましたが、
このようなちょっとした工夫は、
当業者でもいろいろ試行錯誤した挙げ句でないと出て来ないものと思います。
(まず、上記の図3のような状態が問題だ、と捉えるのが難しいと思います。大抵は、従来どおりであればさほど課題を意識せず、そのまま見逃すことが多いと思います。
 また、課題を解決する、という点でも、そんなに簡単に解決法が思いつくとも限りません。たまに天才的にアイディアをポンポン出してくる人もおりますが。。。私は、センスがなかったのかもしれません笑)

発明された結果だけ見ると、単純な工夫にすぎないとも思われます。
たしかに上記図3を見ると、ケーブルが屈曲するのは明らかであり、
これに対し、発明品はちょっとリング部をねじってケーブルの中心近くに移動させただけです。

この発明は特許されております
(正確には当初は実用新案登録され、その後実用新案登録をもとに特許出願され、特許になっております。)

上図1の発明のクレームは、以下です。このクレームで特許されております。
(ごらんになりたい方は、J-platーpatで、特許5465733をご参照ください。)

【請求項1 】
 長レバーのリング部に引張力を負荷することで, テコを利用してケーブルを把持する構造の掴線器において,
 その長レバーの後端に設けたリング部を,長レバー及びケーブルの平面に対して15 ° ~45 ° に捻ったことを特徴とする掴線器。


特許発明のクレームとしては、短いほうだと思います。
発明のポイントは、上記のクレームの2行目の部分だけです。シンプルですね。
個人的には、「15 ° ~45 ° 」という限定が必要であったのかどうか、というところはありますが、実用的な範囲としては必要十分なのでしょう。

また、ケーブルを損傷しないようにする、という目的以外で、リング部を捻って配置する場合も考えると、競合他者にとっては、非常に厄介な発明だと思います。

審判及び訴訟において、この発明の進歩性を判断するに当たっては、複数の文献が引用されておりますが、
このようにリング部を捻った掴線器の発明は、全く出願されておらず、
無効審判の請求人(特許を潰そうとした人)は、
掴線器以外の発明を周知例として引用し、それらの構造を、「リング部が捻られていない掴線器」に適用すれば容易に発明できる、として無効にしようと試みました。

請求人が引用した発明(主引例)は、以下のようなものです。
【主引例の図】



これに、以下のような周知例を適用して、本件発明の掴線器は進歩性がない、と主張しました。
【周知例の図】



裁判所は、これらの周知例は、『部材を「捻った」構成が記載されているものの、~ 掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有する部材に関するものでもない。』と認定しました。
例えば上記図面の符号29の部分が「捻った」構成です。


この裁判例は発明者の方々にどのような意味があるのでしょうか。
いろいろな見方があると思いますが、、、
上記の例が示唆するところの一つは、

仮に自分の発明が、異なる分野の製品、異なる機能の部材に似た構造を有していたとしても、特許となりうる、ということだと思います。

そして、その製品との違い及びその違いが何らかの課題を解決できることを説明できれば、特許される可能性は十分あると考えます。

例えば、上記の周知例の図の符号29の部分は、部材を捻った、という点では本件発明のレバーと同じ加工がされております。
そして、上記の主引例の符号37の部分を上記の周知例の符号29のマネをしてちょっと捻れば、本件発明は簡単に実現できます。

しかし、この周知例の構造を主引例となっている製品に適用するのは、当業者にとって容易ではないのです。

上記にも記載したように、周知例は、「掴線器に関するものではなく,掴線器の長レバーと同様の作用や機能を有する部材に関するものでもない」のですから、
このような関連もない製品を根拠に本件発明を作り出すのは、容易ではないということになります。

特許の審査においてどのような文献が引用されるかは、よほど調査しない限り正確にはわかりません。
しかし、引用例として挙げられた同じ分野の同じ機能の製品に対し、出願した発明が意味のある相違点(何かしら課題を解決している相違点)を有しているのであれば、反論(進歩性があると主張する)の余地はあります。
特に、掴線器のような独自の機能を有している製品の発明は、従来技術に対する相違点及び相違点が解決している課題も、見つけやすく、説明もしやすいと思います。

上記のような発明の例を見ると、とりあえずシンプルな内容の発明であっても、出願を検討する価値は十分にあると思います。

まず、把握すべきは、
 ・従来技術との「相違点」
そして、
 ・その「相違点」がいかなる課題を解決してるか
を考えてみてください。
(出願するに当たって、上記の情報があれば十分かと思います。あとは特許明細書を書く方がうまくアレンジしてくれるでしょう。)

全く同じこと(技術)を考えている人がそんなにたくさんいますかね??
似たようなことを考えている人はいるかも知れませんが、
ちょっと違うことのほうが多くないでしょうか?

そのちょっと違う技術のどちらが価値が高いか、と言われても、
その価値は、いろいろな基準で判断されるものであり、
例えば、機能、性能だけでなく、コスト、入手のしやすさ、などの周囲の状況でも変わってくるものです。
単純に性能が良いから市場シェアがとれる、というものでもないと思います。
つまり、、、

出願時点で、発明の価値は判らない 
        → 特許の登録可否もその技術的な価値では決められない

という見方もあると思います。

また、出願して拒絶される場合のよくあるケースは、
従来技術を知らなかった、というところに起因していると思います。
または、同じ会社の隣のグループの人がすでに出願していた、などのケースもよくあります(笑)。
これらの場合、進歩性の話ではなく、新規性がない、として拒絶されることが多いのかな、と思います。

その発明を製品として発売したとき、市場においてその製品に価値があれば、誰かが真似すると思います。
例えば、
 ・競合他社が真似をする
 ・納入先が別会社に同じ製品を安く発注する
 ・納入先が自分で作る
このようなことが起きることは想定できます。
これを回避するには、契約などで縛る、ということもできるかと思いますが、特許権などを取る、というのが一番良い方法です。
(特許権を取るメリットの一例です。)
自分の作り出した製品に何らかの権利をつけることにより、
取引を有利に進められることは間違いないでしょう。

上記に説明したように、従来技術に対するちょっとした相違点があれば、
特許権として形にできる可能性は十分あります。

弊所は東京都中央区にありますが、積極的に対面でのご相談に応じております。
特に、上記のような構造に特徴がある製品、一般的には知られていないような製品については、実物を確認してのご相談がよろしいかと思います。


お気軽にご相談ください。


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